健全な管理組合運営に全力を注ぐマンション管理組合の理事や所有者には残念なことを言います。
マンションの大規模修繕工事は、国土交通省が警鐘を鳴らす不適切コンサル等の問題に象徴されるように、悪徳業者が「素人相手に好き勝手できる絶好のビジネスチャンス」です。
このビジネスチャンスを狙い新たな手口で管理組合を騙してリベート(キックバック)を受け取る悪徳業者が増えてきました。
本記事では、その手口と対策を紹介します。
こんな方に読んでほしい
- 特定の業者に大規模修繕工事を発注しようとする人に心当たりがある
- マンション購入後間もなく大規模修繕工事の検討に積極的に関わろうとする人に心当たりがある
1 大規模修繕工事前にマンションを購入する業者の狙い
大規模修繕工事前のマンションを購入し、大規模修繕工事の発注の見返りとしてリベートを狙う手口が増えてきました。
このような悪徳業者が狙うマンションの特徴は次のとおりです。
悪徳業者に狙われるマンションの特徴
- 2~3年以内に大規模修繕工事を予定している
- 大規模修繕工事を実施することができるだけの修繕積立金がある
理事会はマンションを購入後すぐに大規模修繕工事の実施に関わろうとする人が現れた場合、注意が必要です。
法人名義で購入し、その社員が積極的に管理組合運営に参加しようとする場合は特に注意が必要です。
2 大規模修繕工事のリベートを狙うマンションを所有した業者
マンションを購入した悪徳業者はどのようにしてリベートを受け取るのでしょうか?
リベートの受け取り方
裏で繋がっている工事業者に、マンションの大規模修繕工事を受注させることにより、リベート(バックマージン)を受け取ります。
悪徳業者はこのリベートを目的に繋がっている工事会社が受注しやすいように行動します。
わかりやすい行動としては、理事会・修繕委員会での検討状況の情報を流すことや、当該工事会社が有利になるように理事会・修繕委員会で発言をします。
悪徳業者と工事業者が繋がっているかは、言動を見ていればわかるのでは?と思うかもしれません。
しかし、皮肉なことに管理組合が大規模修繕工事の透明性を求めて、工事会社を公募(一般的には建通新聞を利用することやマンション所有者からの公募)することが逆効果になります。
悪徳業者は管理組合を騙すことなど簡単と考えており、自らが工事会社を紹介するということは表向きには実施しません。
裏で繋がっている工事会社にマンション管理組合での大規模修繕工事の検討状況の情報を流して、悪徳業者とは関係ない形を装い、建通新聞といったルートから応募させます。
この方法を取られることで管理組合としては、悪徳業者と工事会社の繋がりはわからなくなります。
公募制度を巧みに利用したリベートの受け取り方
- 1社だけでなく複数の息のかかった業者を応募させる
- 2次下請け、3次下請けに息のかかった業者を紛れ込ませる
3 目の前にいる理事・修繕委員は本当にマンションの所有者か?
大規模修繕工事のリベート狙いでマンションを所有する場合、費用の面から個人名義で行うことが難しくなります。
そのため、法人名義でマンションを所有します。
しかし、大規模修繕工事の検討に法人名義で理事会に参加すると怪しまれるため、あくまでも個人が所有しているかのように装って検討に参加します。
この観点から悪徳業者の参加を防ぐためには登記簿を取得すればいいのですが、理事会の参加資格を確認するために登記簿を取る管理組合はほとんどありません。
また、悪徳業者は少しでも不自然さを隠すために、管理組合には意図的に個人名義で届け出る場合があります。
実例として、大規模修繕工事の検討開始のタイミングでマンションを購入した法人が、理事会・修繕委員会に異なる個人名義で参加していましたが、管理費等の引き落とし先は同じ法人であったということもあります。
4 大規模修繕工事が終わると悪徳業者はマンションを売却してさよなら
悪徳業者は巧みに立ち振る舞い、狙い通り裏で繋がっている工事業者に大規模修繕工事を受注させた後にも仕事は残ります。
その仕事とは大規模修繕工事を無事に終わらせることです。
どのようなことから悪徳業者と工事会社の繋がりが明らかになるかわかりません。
大規模修繕の工事会社決定後の悪徳業者の動き
工事会社との関係性に突っ込まれるようなことにならないように注意し、工事を終了させるまで、あの手この手で上手く理事会を誘導して、繋がりを疑われそうなトラブルを強引に解決します。
このようにして、晴れて大規模修繕工事が終了すると、すぐに悪徳業者はマンションを売却して新たなターゲットマンションの所有者となります。
5 悪徳業者に狙われないためのマンション管理組合の自己防衛策
悪徳業者に騙されないために管理組合ができることは何でしょうか?
対策を紹介します。
管理組合の防衛策
- 国土交通省のデータを参考にする
- 理事や修繕委員になる人の登記簿を確認する
- SNSから悪徳業者と工事会社との関係性を確認する
- 理事や修繕委員になれる人はマンション購入後の一定期間経過後とする
5-1 国土交通省の「大規模修繕工事関する実態調査」を参考にする
大規模修繕工事はマンションの形状、使用部材、劣化状況等により、工事金額や内容は変わりますので、一概には言えませんが、参考にできそうな調査結果があります。
それは国土交通省が実施した「マンションの大規模修繕工事に関する実態調査(平成30年5月11日)」です。
引用 マンション大規模修繕工事に関する実態調査を初めて実施
~工事を発注しようとする管理組合等が適正な見積りかどうか検討する際の指標となります~
この実態調査では、大規模修繕工事の工事金額、工事内訳、設計コンサルタント業務実施内容及び実施期間、設計コンサルタント業務従事技術者の業務量等が公表されています。
参考までに主だったデータを紹介します。
①大規模修繕工事回数と築年数、棟数
参照:国土交通省 マンション大規模修繕工事に関する実態調査 4項
②大規模修繕工事回数と床面積(㎡)あたりの工事金額
参照:国土交通省 マンション大規模修繕工事に関する実態調査 7項
③設計コンサルタントの業務内訳について
参照:国土交通省 マンション大規模修繕工事に関する実態調査 8項
これら調査結果はかなり細かくまとめられていますので、読み解くことが大変ですが、わかりやすいデータとしては、大規模修繕工事の戸当たり金額だと考えます。
④大規模修繕工事の戸当たり金額
次の表は、上記調査結果から100世帯のマンションであれば、大規模修繕工事の工事金額が7,500~1憶円に収まる割合が30%ということを示しています。
その他、調査結果には、1回目、2回目、3回目の大規模修繕工事における戸当たり金額の中央値も示されていますので参考にしてみてください。
大規模修繕工事の戸当たり金額 | 割合 |
~50万円 | 12.8% |
50~75万円 | 13.8% |
75~100万円 | 30.6% |
100~125万円 | 24.7% |
125~150万円 | 9.6% |
150万円~ | 8.5% |
5-2 理事や修繕委員になる人の登記簿を確認する
登記簿は誰でも取得できます。
管理会社に頼めばすぐに取得可能ですし、個人でも取得可能です。
登記簿を取得し、管理組合に届け出のあった情報との齟齬や、本当の資格者が理事会等に出てきているのかを確かめて悪徳業者に対抗します。
5-3 SNSから悪徳業者と工事会社との関係性を確認する
SNSを駆使して工事会社と関係性があると考えられるような証拠写真を元に、リベート狙いの業者選定を防いだ管理組合があります。
その方法は、悪徳業者と疑わしい人に対して、「入札に参加した●という業者をしりませんか?」と問いかけ、「知らない」と答えた時点で、SNSの写真を突き付けるという方法でした。
ここまで正義感を持って強い意志を示すことは理事にとって覚悟は必要なことです。
正直にすごいと思ったことであり、強く印象に残っています。
5-4 理事や修繕委員になれる人はマンション購入後の一定期間経過後とする
理事・修繕委員の資格として、所有や居住をしてから一定期間後からしか就任できないという管理規約を定めます。
しかし、この方法は悪徳業者から「所有者の権利をはく奪するのか?」という指摘を受ける可能性があります。
ただ、管理組合としては反対する人はほとんどいない(反対者は怪しい)と考えられるため、管理規約の有効性を問われたときに争う覚悟があれば定めてしまうことも一つの方法です。
この対策で重要なことは、悪徳業者が所有者になってから定めるのではなく、予め対策を講じておくことです。
まとめ
本記事のまとめ
大規模修繕工事前にマンションを購入する業者の狙い
大規模修繕工事のリベートを狙うマンションを所有した業者
目の前にいる理事・修繕委員は本当にマンションの所有者か?
大規模修繕工事が終わると悪徳業者はマンションを売却してさよなら
悪徳業者に狙われないためのマンション管理組合の自己防衛策
皆様の大切な修繕積立金が、不適切コンサルや本記事で紹介した悪徳業者にリベートとして渡っていると悔しいですよね。
マンションの修繕積立金不足は社会問題化しており、大規模修繕工事のリベート問題は、管理組合にとってこの問題に拍車をかける要因です。
本記事が、管理組合として、不適切コンサルや悪徳業者に騙されないように、普段からマンション管理に関心を持ち、自己防衛策を講じながら、健全な運営ができることの一助となれば幸いです。
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