マンションの大規模修繕工事の進め方として、設計監理方式と責任施工方式があります。
本記事では理事長(役員)に向けて多くのマンションで選ばれる設計監理方式を、3つのステップに分けて進め方を紹介します。
こんな悩みを解決したい
- 大規模修繕工事における設計監理方式の進め方を知りたい
1 大規模修繕工事の設計監理方式は3つのステップで進める
大規模修繕工事の検討開始から工事完了までの流れを意識した時に大きく3つのステップに分かれます。
このステップを理解することで全体スケジュールを理解したうえで検討を進めることができます。
大規模修繕工事の進め方
大規模修繕工事の実施時期を決める
公募等により施工会社を選定する
大規模修繕工事の着工から完了
2 ステップ1:建物劣化調査診断を実施して大規模修繕工事の実施時期を決める
検討から工事の開始まで、数年を要する一大イベントの大規模修繕工事ですが、まずはいつ大規模修繕工事を実施するかを決めるために、建物劣化調査診断を実施する必要があります。
そして、大規模修繕工事の実施時期の決定は4つの手順で検討することにより、円滑に決めることができます。
4つの手順について進め方をお伝えします。
大規模修繕工事の実施時期決定のための4つの手順
- 大規模修繕委員会の発足
- 建物劣化調査診断会社の選定
- 建物劣化調査診断と仕様書・概算予算書の作成
- 大規模修繕工事の実施時期の決定
2-1 大規模修繕委員会の発足
修繕委員会のメンバーは、一年毎に交代する管理組合役員ではなく、継続的に大規模修繕工事に関する検討に参加できる、やる気と専門性を持った修繕委員を公募し、立候補いただいた方を中心に発足します。
新築マンションでの修繕委員会発足の目安は築10年と考えるといいでしょう。
また、すでに1度は大規模修繕工事実施しているマンションでは、前回の実施から10年程度が目安となります。
なお、国土交通省が概ね5年毎に実施するマンション総合調査(2018年実施:平成30年度)の結果では85%のマンションで「大規模修繕や長期修繕計画に関する委員会」が設置されており、専門委員会無しでの検討はごく少数派であることがわかります。
大規模修繕工事の目安が概ね12~15年程度と言われている背景
鉄部塗装工事を概ね6年毎に実施すること、シーリング材が10年ほどで劣化すること、防水の補償は10年で終了するといったことから、総合的に考えられた実施時期から逆算した目安です。なお、大規模修繕工事の実施時期には法令上の制限はありません。
2-2 建物劣化調査診断会社の選定
どれだけ大規模修繕工事の経験が豊富な専門家でもマンションの外観を見るだけで、詳しい調査もせずに大規模修繕工事の実施時期を見定めることはできません。
そのために、まずは建物劣化調査診断を行い、実施時期を見定める必要があります。
建物劣化調査診断は、塗装の状況、タイルの浮き、塗膜の付着力、バルコニー側の立ち入り調査等を行い、建物の劣化状況を正確に把握し、実施時期の目安を定める重要な調査です。
この建物劣化調査診断を実施した会社にその後のコンサルティング業務、工事監理を依頼することが一般的です。
昨今、国土交通省が警鐘を鳴らしている不適切コンサルは、善良な診断会社に比べ、診断に要する費用が安価です。ここは十分に注意してください。
不適切コンサルの見分け方と注意点
建物診断の見積もりを依頼したときに、安価な値段で業務を受けるという会社は怪しいと思ってください。
特に複数社から相見積もりを取得し比較したときに、異様に安価な業者があることがあります。
この段階で関与できないと工事まで関わることができませんので、建物診断を安く、工事の施工会社からリベートを受け取り儲けを出すという仕組みが王道です。
しかし、多くの管理組合では「なぜ高いのか?」を掘り下げることは多くても、「なぜ安いのか?」を深堀りすることはあまりされません。
この観点からを深堀するだけでも不適切コンサルを見抜くための十分な対策となります。
管理組合の中には1円でも安い業者に依頼することを美徳としているところもありますが、安かろう悪かろうといったことや、結果として工事費に上乗せされた費用からコンサルの利益に繋がっていることがあります。
建物劣化調査診断・コンサル・工事監理料は、基本的には人件費を積み重ねた価格です。
1級建築士等それなりの資格、キャリアを持った方に業務を依頼することについて、その金額の妥当性を考慮し、依頼先を選定することにより、不適切コンサルの餌食になる確率はぐっと減らすことができます。
2-3 建物劣化調査診断と仕様書・概算予算書の作成
建物劣化調査診断は、いつ大規模修繕工事を実施すべきかを判断することと、後述する見積もり依頼を行うために必要となる仕様書・概算予算書を作成するための重要な調査となります。
また、大規模修繕工事はその工事の規模、金額から言って、例えば「窓ガラスが割れたので新しいものに交換してください。」といったように簡単に見積もりを依頼できるものではありません。
そして、見積もりを依頼するには、次の観点が重要となります。
大規模修繕工事の見積もりを取得する際の重要な観点
- どの範囲を?
- どのような材料を使用して?
- どのように仕上げるのか?
これらのことが決まっていないと、仮にA社とB社に見積もりを依頼しても、結果として、どちらの会社に依頼するのか判断できません。
例えば標準的な材料を使用して、範囲を狭くして1憶円の見積もりを提示したA社と、一方で、長持ちする材料で広範囲にわたる施工範囲で1憶2,000万円の見積もりを提示したB社がいた場合、意見が割れやすくなり、どちらに依頼するのか戸惑ってしまいます。
このようなことが無いように、A社とB社を同じ土台で比較できるように、建物調査診断で建物の状況を正確に把握したうえで、上記観点が網羅された共通の仕様書の作成が重要となります。
2-4 大規模修繕工事の実施時期の決定
建物劣化調査診断の結果をもとに、いつを目安に大規模修繕工事を実施するかを決定します。
このタイミングで決定した大規模修繕工事の実施時期から逆算して概ね1年前から修繕委員会の活動を開始します。
なお、部分的に劣化が進んでいると判断された箇所があれば、そこは応急的に修繕をし、大規模修繕工事のタイミングで抜本的に修繕を行います。
ここで実施時期が1年以上先であれば、修繕委員会の活動は休止します。
3 ステップ2:公募等により大規模修繕工事を依頼する施工会社を決める
多くのマンションでは一度、大規模修繕委員会が休止となりますので、委員会を再結成することから始まります。
ステップ2は5つの手順に分かれますので、それぞれの進め方をお伝えします。
公募等により大規模修繕工事のを依頼する施工会社を決めるための5つの手順
- 大規模修繕委員会の再結成
- 大規模修繕工事の工事範囲、仕様の決定
- 大規模修繕工事の施工会社の募集
- 大規模修繕工事の施工会社の比較検討
- 大規模修繕工事を実施するための総会決議
3-1 大規模修繕委員会の再結成
実施時期から逆算したスケジュールで修繕委員会を再結成します。
以前はプライベートが忙しく参加できなかった方等を巻き込むことができるかもしれませんので、劣化診断当時の委員に加え、新たに委員を募集しても良いでしょう。
3-2 大規模修繕工事の工事範囲、仕様の決定
劣化診断時に作成した仕様書をベースに、大規模修繕工事でどこをどのように修繕したいのか、仕様書の内容を確定します。
この時点で確定した仕様で必ずしも工事を実施する必要はなく、見積もり取得後、施工会社の提案や考えも反映し修正することにより、工事品質を高めることができます。
3-3 大規模修繕工事の施工会社の募集
作成した仕様書に基づき、施工候補会社に見積もりを依頼します。
見積もりを依頼する会社は区分所有者からの紹介、建通新聞やマンション管理新聞といった業界紙等を利用して公募するのが一般的です。
不適切コンサルに関して、施工会社は公募しているから大丈夫と思われるかもしれませんが、経験豊富なコンサルタントほど、多くの現場で様々な工事会社と関わっています。
これまでの付き合いで、管理組合に提出する見積もりに自社へのバックマージンを上乗せするように指示をし、どこの会社に決まっても利益が見込めるように管理組合を誘導します。
管理組合は工事会社の決定まで巧妙に誘導されることで、この実態に気づきません。
その結果、金額が安価で良い工事会社を選ぶことができたという錯覚に陥っていまいますので、施工会社の募集や選定の進め方には注意してください。
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また、バックマージンの問題は、不適切コンサルだけでなくマンション内部にも潜んでいます。
様々な報道で理事長や修繕委員が、自身にバックマージンが入るように業者選定を誘導し、管理組合に不利益を及ぼしたということを見聞きされたことがあると思います。
管理組合役員や修繕委員は、本来なら自分たちの共有財産の価値を高めていく、維持していくために、プライベートの時間を費やして、活動されるはずです。
それが、「自分はこれだけ貢献したのだから一定のバックマージンをもらっても良い。その対価をいただいて当然である。」との考えから自身の行為を正当化し、自身の利益に走ります。
このような問題を背景に、近年では標準管理規約に利益相反取引の防止に関する条文が規定されましたので参考にしてください。
3-4 大規模修繕工事の施工会社の比較検討
見積書が提出されましたら、各社の見積もりを比較し、施工会社を決定します。
施工候補会社は以下のような手順で選定を進めます。
施工候補会社の選定手順
- 一次審査:見積り前の書類審査(会社の規模、実績等から見積もりを依頼する会社を絞ります。)
- 二次審査:見積り審査(提出された見積りから代理人を伴ったプレゼンテーションを依頼する会社を絞ります。)
- 三次審査:プレゼンテーション審査(工事が始まったときに現場責任者となる代理人や会社の営業、工事部門の担当者等のプレゼンを受けます)
このプレゼン内容を踏まえ、新たな工事仕様に関する提案があるかもしれせん。良いと思うのであれば、その内容を反映することでより良い工事に繋がります。
大規模修繕工事の施工会社を選ぶポイント
工事実績、財務内容、代理人、緊急時の連絡体制、工事期間中及び工事後の保証等を重点的に確認します。
仕様を統一して見積りを依頼していますので、当然金額が安価な方が良いという考えに流されやすいですが、実は大規模修繕工事を成功させるための重要なポイントの一つに現場代理人の存在があります。
現場代理人は工事中に関係する多くの職人を統率する立場です。そして代理人と職人の繋がりで良い職人を手配できるかどうかも影響してきます。
つまり、良くも悪くも代理人次第で出来栄えに影響が及びます。
また、工事中のトラブルも代理人が音頭を取って解決を図りますので、経験、人柄等を総合的に確認することをお勧めします。
実例として「マンションの近くに住んでいます。何かあったらすぐ駆けつけることができます。」と代理人が言ったことが決め手となったこともありました。
ただし、そういったエース代理人は工事会社が抱える工事において、大きな現場を任せることが多いため、小規模マンションの修繕といった場合には、あまり期待できません。
3-5 大規模修繕工事を実施するための総会決議
ここまで進めば、次のことを総会で決議します。
大規模修繕工事の実施を決めるマンション管理組合の総会での決議事項
- 仕様、実施時期と期間
- 施工会社と発注金額(忘れず工事費の5~10%程度の予備費を計上しておく)
- 監理会社と発注金額
- 運用している修繕積立金の取り崩し
タイルの張り替えが想定より多く必要になるといった、工事を実施しなければわからないこともあります。
このようなことに備えるためにも、工事金額にプラスして5~10%程度、予備費を計上しておくことをお勧めします。
4 ステップ3:大規模修繕工事を開始して完了
総会で施工会社を決定するといよいよ大規模修繕工事が始まります。
このタイミングになれば予定通りに工事が進むかどうかが重要となりますので、その進捗の確認と修正に追われることになります。
ステップ3は2つの手順のみです。
大規模修繕工事を開始して工事を完了させるまでの2つの手順
- 大規模修繕工事の工事開始前の住民向け説明会の開催
- 大規模修繕工事の着工~完了
4-1 大規模修繕工事の工事開始前の住民向け説明会の開催
洗濯物をいつ干して良いかといった、工事期間中の生活の制限や注意事項について、工事会社による説明会が開催されます。
最近は大人向け、子供向けの説明会を開催することも一般的になっています。
生活にも影響しますし、工事が円滑に進むためにも積極的に参加しましょう。
工事説明会の対象は居住者だけではありません。
工事費用は修繕積立金から支出されますので、マンションの外部に住む、区分所有者にも説明会の案内を行うとともに、区分所有者を通して、居住者である賃借人にも工事に協力するように連絡をしておいていただくと円滑に進みやすくなります。
4-2 大規模修繕工事の着工~完了
工事の実施が決まれば終了ではなく、工事が無事に完了して、修繕委員会は解散となります。
工事期間中は定例会を開催し、進め方、進捗状況、問題点を共有しながら進めることとなります。
特に工事を実施してわかる課題も出てきます。これらを一つ一つ解決し、満足度の高い工事となります。
まとめ マンションの大規模修繕工事(設計監理方式)の進め方
本記事のまとめ
大規模修繕工事の設計監理方式は3つのステップで進める
ステップ1:建物劣化調査診断を実施して大規模修繕工事の実施時期を決める
ステップ2:公募等により大規模修繕工事を依頼する施工会社を決める
ステップ3:大規模修繕工事を開始して完了
大規模修繕工事(設計監理方式)の進め方を大きく3つのステップで紹介しました。
大規模修繕工事の実施に向けた全体の流れがわからない方の不安解消に少しでも役に立てば幸いです。
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