修繕積立金は多くのマンション管理組合で不足しています。
実際に国土交通省が実施している2018年(平成30年度)のマンション総合調査の結果では、計画上の修繕積立金の積立額に対して、現在の修繕積立金の積立額が不足しているマンションの割合は34.8%であったとの結果が出ています。
この調査は国土交通省のアンケートに協力するような意識の高いマンション管理組合の関係者が回答しています。
そのため、長期修繕計画が無いマンションや危機感を持っていないマンションはあまり回答をしていないと考えると、修繕積立金の不足はもっと深刻な状況と思います。
本記事では、修繕積立金の値上げは区分所有者にとって嬉しいことではありませんが、あなたのマンションを守っていくときに、避けては通れない修繕積立金の値上げをトラブル無く円滑に進めるための注意事項を紹介します。
3分程度で読むことができますので、最後までお読みいただけると幸いです。
本記事をご覧いただくことでマンション管理組合で区分所有者同士のトラブルを回避して修繕積立金を円滑に値上げする進め方(手順)を知ることができます。
1 管理規約で修繕積立金を値上げするための決議方法を確認
マンションの資産価値を維持するために、大半のマンションでは問答無用に修繕積立金の㎡単価を急いで200円以上に値上げすべきと考えています。
この200円という水準は60㎡のお部屋であれば月額12,000円(200円×60㎡)、80㎡のお部屋であれば月額16,000円(200円×80㎡)という意味です。
ではマンションで修繕積立金を値上げするためにはどうしたらいいでしょうか?
まずはご自宅の管理規約を確認してください。
標準管理規約を参考にすると、第48条に総会での議決事項として、「管理費等及び使用料の額並びに賦課徴収方法」との記載があります。
また、第25条に「管理費等」は、管理費と修繕積立金だと記載されています。
積立金の値上げに必要な手続き
要するに修繕積立金は管理組合の総会における普通決議(総会の出席者の過半数)で値上げができるということです。
なお、マンションによっては管理規約の変更が必要な場合もありますので、その場合は特別決議が必要となります。
2 修繕積立金の値上げをいきなり総会に提案をしてはいけない
総会で決議ができるからといっていきなり「㎡単価を●円に値上げする」という提案をするとどうなるでしょうか?
おそらく次のような反対意見が出て、理事会と区分所有者の間でトラブルに発展することもあり得ます。
そのような状況を回避するためには、値上げに向けて注意点を理解して、慎重かつ着実に進める必要があります。
修繕積立金の値上げに対する反対意見
- 事前告知、検討が不十分
- 専門委員会を組織して検討すべき
- 高齢でそのような金額は払えない
- 知り合いのマンションではそんなに高くない
- 値上げしなくても都度工事費を抑えればやっていけるはず
- 知っている不動産関係の人に聞いたが、このような金額は高いといわれた
3 修繕積立金を値上げするための総会決議に向けた進め方と注意事項
お金の話になるとそれまで無関心層であった区分所有者が大きな声で反対意見を主張し始めます。
また、まるで理事会や管理会社が間違った情報を流しているような論調で極論で反対し始めるので、マンションの資産価値を維持していくために、修繕積立金を値上げしたい人にとってはたまったものではありません。
そのためにしっかりと手順を踏むことが重要となります。以下、修繕積立金の値上げに向けた進め方と注意事項の参考例です。
修繕積立金の値上げの手順
- 細心の長期修繕計画書を準備して資金計画を確認する
- どのタイミングを目指して修繕積立金を値上げするかを決める
- 修繕積立金の値上げに関するアンケートを実施する
- 理事会としてアンケートで出た意見に対する考えをまとめる
- 理事会の方針及びアンケート結果を広報して説明会を開催する
- 総会を開催して修繕積立金の値上げを決議する
3-1 最新の長期修繕計画書を準備して資金計画を確認する
必要な修繕積立金を算出するための根拠が長期修繕計画です。
まずは長期修繕計画を準備するとともに、その計画に基づいた場合の資金計画をシミュレーションします。
管理会社によっては毎年無償で更新(例:4期~33期の30年の計画書があれば翌年は5期~34期に更新)する会社もありますが、概ね5年に一度の更新となります。
5年を待たずに提出してもらうためには管理会社と交渉するか、管理会社ではなく設計会社に長期修繕計画の作成を依頼する方法もあります。
3-2 どのタイミングを目指して修繕積立金を値上げするかを決める
どのタイミングを目指して、そこに向けて必要な資金を積み立てていくかのターゲットを決めます。
このタイミングを決めることによって必要な修繕積立金の総額が決まりますので、そこから逆算に値上げ幅を確定します。
値上げの基準とする時期
- 1回目(2回目や3回目)の大規模修繕工事
- エレベーターや給排水管の更新工事
- 長期修繕計画で定める期間である25年や30年後
3-3 修繕積立金の値上げに関するアンケートを実施する
区分所有者向けに値上げに関するアンケートを実施します。
このアンケートはあくまでも修繕積立金の負担義務を負っている区分所有者向けにする必要があり、賃貸で住んでいる居住者に実施しないように注意が必要です。
また、アンケートでは「説明会を開催するべき」との意見が出ることが予想されますので、「説明会の開催は予定している」・「希望者が多ければ開催する」といったことをアンケートに盛り込んでおきます。
値上げ案のポイント
修繕積立金の値上げ幅は複数提示するようにします。
できれば松竹梅で竹を選んでしまう理論を利用し、3つの値上げ案を用意し、理事会方針も明記するようにして真ん中の案を選ぶことを想定しているという立て付けにします。
3-4 理事会としてアンケートで出た意見に対する考えをまとめる
Q&Aの形式ですべての意見に対して理事会としての考え方をまとめます。
明確に回答できないような意見には「検討の参考にする」という考えもあります。
3-5 理事会の方針及びアンケート結果を広報して説明会を開催する
アンケート→説明会→総会という進め方は丁寧ですが、分譲時からや以前に管理組合で決めていた値上げ方法を採用する場合は、説明会を割愛して作成したQ&Aを配付するだけという進め方もあります。
3-6 総会を開催して修繕積立金の値上げを決議する
総会に提出する議案には、将来的に修繕積立金を値上げしたときにどのような進め方(概略だけでなくアンケート結果や説明会結果を含む)をしたのかを確認できるようにこれまでの経緯を記載しておきます。
また進め方を記載しておくことは反対派があまり強く発言できない状況を作り出すことに役立ちます。
まとめ 修繕積立金を値上げするための進め方とトラブルを避けるための注意事項
本記事のまとめ
- 管理規約で修繕積立金を値上げするための決議方法を確認
- 修繕積立金の値上げをいきなり総会に提案をしてはいけない
- 修繕積立金を値上げするための総会決議に向けた進め方と注意事項
別の進め方で成功事例をお持ちの方がいらっしゃると思いますが、修繕積立金を値上げすることを前提とした一つの進め方を記載しました。
修繕積立金は少しでも早く、できるだけ大きな値上げをしておくことが将来の負担感の軽減に繋がります。
既に修繕積立金の不足問題は顕在化していると思っていますが、さらに深刻化してくることを想定したときに、本記事が値上げを考えている方の参考になれば幸いです。
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