リーダーシップがある、社会的にもそれなりの立場がある人が理事長になっていると思っている人は多いかもしれませんが、理事長の多くは、管理組合役員の輪番が回ってくることにより、理事の互選(時にはくじ引き等)で決定します。
一方で、一部のマンションでは自ら理事長に立候補して、結論ありきで思うがままの理事会運営を行ってしまう、暴走理事長が存在します。
特にこの暴走理事長は大規模修繕工事といったお金が絡むときに誕生しがちです。
今回は、運悪くあなたのマンションでこのような暴走理事長が就任してしまった場合の対策を最高裁の判例や標準管理規約を参考に紹介します。
また、そもそも暴走理事長を誕生させない方法にも触れたいと思います。
こんな方におすすめ
- 暴走する理事長に悩まされている管理組合関係者
- 暴走理事長を誕生させないための対策を講じておきたい方
1 暴走するマンション管理組合の理事長の特徴
暴走する理事長には、特徴があります。もし次のような特徴が見られる場合は要注意です。
暴走する理事長の特徴
- 結論ありきで議論の過程は関係ない。
- 他の理事や管理会社の話を聞かない。
- 管理規約を都合の良いように解釈する。
- 理事会で話していないことが、理事長の独断で勝手に決まっていく。
- 工事や保険といったお金が絡むことを自分の知り合い、関係会社に任せようとする。
2 マンション理事長の解任が認められた最高裁判所の判例から考える対策
2017年(平成29年)12月18日に最高裁にて、理事長の解任の方法についての争いが、次のように判断されました。
判決結果:総会を開催しなくても、理事長を解任(あくまでも理事長職の解任で、理事には留まる。)できる。
最高裁の判決の概要
- 判決の前提:理事を組合員のうちから総会で選任し、理事の互選により理事長を選任する旨が管理規約で定められているマンションである。
- 解任の正当性を訴える理事会の主張:理事長を選任した理事会が解任もできるのは当然である。
- ポイント:理事の互選で理事長を選任するようにしているのは、標準管理規約(35条)にも定められており、多くのマンションで同様の規定がある。
- 解任方法:管理規約に基づき互選により選任された理事長は、理事の過半数の決議により理事長の職を解くことができる。
標準管理規約第35条(役員)
第3項 理事長、副理事長及び会計担当理事は、理事のうちから理事会で選任する。
※この規定の前までは「理事の互選により選任する」との規定であった。
暴走する理事長が自らの利権を求め、このように裁判に発展するようなケースもあります。
対策としては、管理規約にわかりやすく、「理事長、副理事長及び会計担当理事は、理事のうちから理事会で選任し、解任の場合も理事会で決定するものとする」と追記すればいいでしょう。
あわせて、第54条(理事会の議決事項)にも、「理事長、副理事長及び会計担当理事の選任及び解任」と入れておきましょう。
3 マンションの理事長を解任・辞めさせる方法
標準管理規約の規定を参考に、正攻法で理事長を解任・辞めさせる方法を紹介します。
ただ、どちらも現実的な方法ではなく、成功しても遺恨を残す方法です。
総会で理事長を辞めさせる方法
- 組合員総数及び議決権総数の5分の1請求での総会開催で解任
- 監事による総会開催で解任
3-1 組合員総数及び議決権総数の5分の1請求での総会開催で解任
最高裁の判例は「理事長職を解任する方法」ですが、こちらは「理事の職そのものを解任する方法」です。
標準管理規約第35条では理事は総会で選任すると定められています。
そのため理事の職そのものは、総会で解任するしかありません。(理事側から一方的に辞任することはできます。)
しかし、総会の開催は理事長が行うことになっているため、暴走する理事長が自らが辞めさせられる総会を開催するとは考えられず、現実的には難しい方法です。
一方で、標準管理規約第44条に基づく5分の1請求を行い、総会を開催する方法もあります。
こちらも理事長に開催請求を行うことができるという前提ですが、仮に理事長が総会を開催しない場合に、総会開催の請求者が総会を開催することができるとされています。
しかし、組合員のリストを把握することや結局は総会の議長は、標準管理規約第42条5項に基づき、理事長が務めることになっているため、総会資料の配付や委任状の回収に無理が生じることは明らかです。
さらには、暴走している理事長のため、素直に総会開催は受け入れたように見せかけ、委任状・議決権行使書を集めず、総会を不成立にしようとしたり、数を偽って報告するといった妨害行為も容易に想像できます。
残念ながらこのような考えから有効性のある対応ではありません。
標準管理規約 35条・44条
第35条(役員)
第2項 理事及び監事は、組合員のうちから、総会で選任する。
第44条(組合員の総会招集権)
組合員が組合員総数の5分の1以上及び第46条第1項に定める議決権総数の5分の1以上に当たる組合員の同意を得て、会議の目 的を示して総会の招集を請求した場合には、理事長は、2週間以内にその請求があった日から4週間以内の日(会議の目的が建替え決議であるときは、2か月と2週間以内の日)を会日とする臨時総会の招集の通知を発しなければならない。
2 理事長が前項の通知を発しない場合には、前項の請求をした組合員は、臨時総会を招集することができる。
3-2 監事による総会開催で解任
標準管理規約第41条3項の規定に基づき、監事は理事会の承認もその他組合員の承認も無く、臨時総会を開催できます。
しかし、「不正があると認めるとき」には総会の開催が認められている状況のため、開催議案や表現によっては、暴走理事長から総会の内容に関して、名誉棄損等の反撃があるかもしれません。
5分の1請求による開催にせよ、監事権限での開催にせよ、もめることは確実です…
標準管理規約第41条(監事)
第3項 監事は、管理組合の業務の執行及び財産の状況について不正があると認めるときは、臨時総会を招集することができる。
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まとめ 理事長の暴走を許さない有効な対策は雰囲気、環境造り
暴走理事長が誕生する背景として、組合員の管理組合運営への無関心が関係しています。
無関心管理組合の特徴
- 理事会成立の出席定数を満たさない
- あの人に関わりたくないという人が理事長である
- 総会の出席者が少ない(今期と来期役員しか参加しない)
- 理事会では誰からも意見が無く、意見を発した人(暴走する理事長)の考えに流される
確かに管理組合運営は世間一般的に浸透しているものではなく、法律も絡んで面倒です。
また、役員に就任すれば定期的な理事会の開催や各種相談事もあり、プライベートの時間を費やして対応しなければなりません。
他の人に任せておくことで、大きな問題なく進むというのであれば任せたくなる気持ちもわかります。
しかし、暴走理事長が誕生してからでは、事態解決が難しいです。
難しいですが、組合員一人一人が管理組合活動に関心を持ち、積極的に組合活動に参加することが、何より暴走理事長に対する有効策だと思います。
自分の財産(マンション=管理組合)は自分で守るという強い意志のもと、積極的な組合運営への参画が、結果として財産を守ることに繋がります。
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