本記事では、そもそも修繕積立金は「何のために必要となるお金なのか」、「相場や平均的な金額はあるのか」といったことだけでなく、「中古マンションを購入する側、売却する側が修繕積立金をどのように考えているのか」といったことも紹介します。
こんな方におすすめ
- 中古マンションの購入・売却を考えている方
- 修繕積立金の相場や平均値を知りたい方
- 修繕積立金の必要性を知りたい方
1 マンションの修繕積立金は管理組合が決める
中古マンションの購入を考えている人も売却を考えている人も、「なんで修繕積立金がこんなに安い(高い)のか?」といった質問を仲介会社やマンション管理会社にしようとしていませんか?
確かに長期修繕計画やマンション管理組合の総会決議の内容に基づき、しっかりと回答できる仲介会社や管理会社は安心できる会社です。
しかし、修繕積立金が「高いor安い」理由を仲介会社や管理会社に問いかけても、個人が思う「高いor安い」の基準とマンション管理組合にとっての基準は違いますのであまり意味はありません。
そして、分譲後の金額設定の決定権はマンションの所有者で構成する管理組合にありますので、仲介者や管理会社に値下げを要求しても筋違いということを理解する必要があります。
2 管理費とは違う修繕積立金の必要性を理解する
よく修繕積立金を管理費と区別ができていない人がいます。
管理費と修繕積立金を使用目的の違いから言うならば、管理費は生活費(ランニングコスト)、修繕積立金は将来に備えた貯金です。
2-1 管理費は家計でいうところの生活費
管理費はマンション管理会社に支払う委託料(管理員や清掃員の人件費が中心)、エレベーターといった共用設備の保守点検費、植栽管理の費用、共用部分の水道光熱費等の日々の生活を送るための使用されるものです。
そのため管理費はマンション管理組合がどういったサービス(コンシェルジュを雇いたい、滝や川といった水景設備を持ちたい、豪華な共用施設にしたい等)を受けたいかといった考えによって大きく左右されます。
つまり、マンションがどういった構造や設備で、管理組合としてどのようなサービスを受けたいのかという考えをもとに、必要経費を積み重ねた結果、その費用を支払うための必要な原資として管理費の額が決定されます。
管理費は都心部ほど高くなる
管理費は人件費が高いことやコンシェルジュサービスを求めるようなハイクラスのマンションが多いことから、都心部ほど高くなる傾向があります。
2-2 修繕積立金は大規模修繕などのために将来に備えた貯金
修繕積立金は長期修繕計画に定められる工事で、一定年数の経過ごとに計画的に行う修繕のために積み立てておくお金です。
長期修繕計画に定められる工事
- 屋上防水工事(12~15年程度に一度)
- 鉄部塗装工事(6年程度に一度)
- 給排水ポンプの交換(給水:12~15年程度に一度・排水:6~10年程度に一度)
- 給排水管の更新(給水:20~30年に一度・排水:30~40年程度に一度)
- エレベーター設備の更新(30年程度に一度)
- 機械式駐車場の修繕(各部品による)etc
また、標準管理規約では次のように修繕積立金の使用目的が定められています。
標準管理規約第28条
修繕積立金
管理組合は、各区分所有者が納入する修繕積立金を積み立てるものとし、積み立てた修繕積立金は、次の各号に掲げる特別の管理に要する経費に充当する場合に限って取り崩すことができる。
一 一定年数の経過ごとに計画的に行う修繕
二 不測の事故その他特別の事由により必要となる修繕
三 敷地及び共用部分等の変更
四 建物の建替えに係る合意形成に必要となる事項の調査
五 その他敷地及び共用部分等の管理に関し、区分所有者全体の利益のために特別に必要となる管理
3 悪意すら感じる販売主(デベロッパー)の安すぎるマンション分譲時の修繕積立金
ほとんどのマンションは、分譲時に販売しやすくするために、修繕積立金を劇的に低く設定しています。
そのため分譲段階では、段階増額積立方式(一定年数ごとに一定額を増額する方式)や一時金の徴収を想定した資金計画になっています。
マンションの販売主(デベロッパー)としては、購入者に長期修繕計画書をベースに必要な修繕積立金を算出すると、将来的に足りなくなることは明らかであることを伝えます。
販売主は「参考になる案は作っておきましたので、分譲後に管理組合ができてからどうぞご自由に金額を設定してください。後で文句は言わないでね。」というスタンスです。
段階増額積立方式の危険性
当初の修繕積立金が6,000円であった場合、仮に5年毎に30%を増額する増額案であれば、25年後には修繕積立金が22,200円(3.7倍)にもなるということです。
4 1万円でも安い!修繕積立金の平均値や相場
必要となる修繕積立金はマンションの構造・設備・立地により異なります。
とは言いつつ、世の中の相場・平均値を知りたいという方は多いので、国土交通省が発表していて、修繕積立金の高い・低いを判断するための参考となる2つの基準を紹介します。
修繕積立金の2つの基準
- 2018年(平成30年度)マンション総合調査
- マンションの修繕積立金に関するガイドライン
この2つの基準を総合すれば、50㎡の部屋であれば月額8,000円~11,000円、70㎡の部屋であれば月額11,000円~15,000円の水準においては、概ね妥当と判断できる修繕積立金の設定であると判断できます。
それでも足りない修繕積立金
この2つの基準は「あくまでも調査時点での平均値」や「築30年まで均等積立方式で積み立てたケース」を基準としているため、これでも将来的には不足することが予想されます。
4-1 2018年(平成30年度)マンション総合調査における修繕積立金の平均値
約2,000棟のマンションの調査時の修繕積立金の平均値です。
マンションの完成年次別や戸数別といった区分でも平均値を確認できますが、全体を総合した結果としては、㎡当たりの月額(使用料・専用使用料からの充当額を除く)は164円でした。
つまり50㎡の部屋であれば8,200円、70㎡であれば11,480円ということです。
なお、多くの新築マンションでは段階増額積立方式を採用しているため、完成年次別に見ると築年数が浅いマンションほど修繕積立金が低いことが一目瞭然です。
4-2 マンションの修繕積立金に関するガイドライン
新築時から30年間に必要な修繕工事費の総額を、当該期間で均等に積み立てる方式(均等積立方式)による月額として示しています。
段階増額積立方式とは異なり、値上げを想定せずに当初から金額が一定となる方式のため、当初の修繕積立金は高く感じますが、負担を平準化できるメリットがあります。
この方式で国土交通省が84のマンションの事例を参考に導き出した望ましい修繕積立金の㎡単価の平均値は規模にもよりますが、178~218円でした。
つまり「㎡単価を178円とすると50㎡の部屋であれば8,900円、70㎡であれば12,460円」、「㎡単価を218円とすると50㎡の部屋であれば10,900円、70㎡であれば15,260円」ということです。
国土交通省発表のマンションの修繕積立金に関するガイドラインから抜粋
参考 管理費の平均値
マンション総合調査では管理費の平均値は147円/㎡(使用料・専用使用料からの充当額を除く)でしたので、50㎡の部屋であれば7,350円、70㎡であれば10,290円ということです。
5 修繕積立金が安い中古マンションの購入は失敗のもと
中古マンションの購入者が修繕積立金に対して持つ考えとして、まず思い浮かべるのが、「ローンと合わせると毎月の支払額がいくらになるのか?」、「支払額は低い方がいいな」といったことです。
このような考えは購入者からすれば当然のことですが、安すぎる修繕積立金はマンションを購入後に次のリスクを抱えています。
低すぎる修繕積立金のリスク
- 修繕積立金の大幅値上げ
- 多額の一時金の徴収がある
- 必要な修繕やメンテナンスが放置されている
その他にも低い修繕積立金のまま管理組合が運営されてきたことを考えると、管理組合活動に無関心な方が多いといったことが考えられます。
さらには、特定の方が理事会運営を牛耳っており修繕積立金は値上げを阻止している、もしくは誰も意見が言えないような状況となっている可能性があります。
なお、購入者は不動産仲介会社から受ける重要事項説明の際に、マンション管理組合の修繕積立金の残高や滞納額について説明を受けます。
「近い将来に大規模修繕を実施予定」であるために残高があるように見えるといったケースが想定されるように、業界関係者でなければ単純に残額が有るか無いかで判断しにくいという悩ましい一面があります。
マンションの購入で失敗しないためにも、正確に管理組合の修繕積立金の資金状況を確認するには、長期修繕計画と資金計画を確認する必要があります。
6 修繕積立金が高い中古マンションが売却しやすくなってきている
修繕積立金が高いとマンションを売却しにくいのでは…と考えてしまいます。
その考えはわからなくはありませんし、実際にマンションの売買の現場では修繕積立金が高いと感じられた場合、購入を避けられることもあります。
一方で修繕積立金が低いままだと無関心管理組合と判断されることや、マンション管理に詳しい人なら、長期修繕計画と資金計画を確認すればどのような財政状況かがわかります。
修繕積立金は必要な値上げをしないで放置している方が、将来的なマイナスの影響が大きくなります。
首都圏のタワーマンションが中心となり修繕積立金の値上げに関する情報発信を続けることにより、ようやく中古流通市場で修繕計画も含めたマンション管理の重要性が重視され始めてきています。
そもそもこの観点で仲介を行うことができる会社が増えることが重要だと思います。
マンションの売却で失敗しないためにも、管理組合でしっかりと検討された結果が現在の修繕積立金であれば、そのことを購入希望者に伝わるような販売活動をしてもらうように仲介会社に伝えましょう。
なお、近年は、民泊・シェアハウス・売却益狙いでの短期所有、といったことが増えています。(コロナ影響で民泊やシェアハウスの需要は厳しくなりましたが…)
こういったことに関係している人たちは修繕積立金が高いと利益が減るため、修繕積立金の値上げには反対の立場をとることがよくあります。
修繕積立金がある程度高いことは、このような人たちが「マンションに住まない、購入しない」といったことに繋がることで、結果としてはマンションを長期的に所有・居住を考えている人にとって、大きなメリットに繋がるのではないでしょうか。
購入者心理のジレンマ
新しくてきれいなマンションほど修繕積立金が低く、管理をしっかりと行い修繕積立金を値上げしてきた築年数が古いマンションほど高くなる傾向があります。
これは購入者側が表面的な金額だけで判断するとなると、新しいマンションを選びがちというジレンマを抱える構造となっています。
まとめ 修繕積立金から判断して安心できる中古マンションを購入
本記事のまとめ
- マンションの修繕積立金は管理組合が決める
- 管理費とは違う修繕積立金の必要性を理解する
- 販売主(デベロッパー)の悪意を感じる安すぎるマンション分譲時の修繕積立金
- 1万円でも安い!修繕積立金の平均値や相場
- 修繕積立金が安い中古マンションの購入は失敗のもと
- 修繕積立金が高い中古マンションが売却しやすくなってきている
現在の修繕積立金は重要ですが、それ以上にこれまでの修繕積立金の推移や管理状況、そして、今後の資金計画が重視されるべきと考えます。
個人の財産や収入によって高いと思う金額は異なりますが、本記事で紹介しました考え方や情報が、中古マンションの購入を判断する際の参考になれば幸いです。
中古マンションの購入には修繕積立金だけでなく長期修繕計画の確認が必要
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