マンション管理業界

コロナの影響で変わるマンション管理業界の問題と明るくしたい未来

マンション管理業界の明るいアフターコロナへの道

新型コロナウィルスの感染拡大は、社会経済だけでなく実生活にも大きな影響を与えています。

 

マンション管理組合では、これまでは想定もしていなかった事態に、戸惑いながら様々な対応を行っています。

 

本記事は、マンション管理組合だけでなく管理会社、そして管理業界全体にどのような問題が起こっており、この問題をきっかけに少しでも明るい未来に進むことができるヒントになればと考えまとめてみました。

※本記事は2020年5月3日の情報を基に記載しています。

 

こんな方におすすめ

  • マンション管理組合理事役員・所有者・居住者
  • マンション管理会社
  • マンション管理組合と取引のある点検、工事、現地スタッフの派遣会社等

 

 

 

1.マンション管理組合の理事会の開催方法

コロナの影響により、直接会って会議を行うという前提で管理規約が定められている理事会の開催方法に悩まされるという問題が多くの管理組合で起こっています。

 

一方で標準管理規約を確認すると理事会を開催するにあたり、インターネット技術によるテレビ会議等での参加について、規約に定めることも考えられるとしています。

 

 

しかし、このような社会情勢になるまで、このことを想定して管理規約でテレビ会議等での参加を認めている管理組合はほとんどありませんでした。

 

ココがポイント

現状、多くの管理組合では、急ぎの議案が無ければ理事会は開催していません。

もしくは、予め理事会議題を書面にまとめ理事に配付し、総会当日は決議を行う場として、短時間だけ実際に理事が集まり、理事会を開催しています。 

 

標準管理規約のコメントにこのような記載がある以上、テレビ会議等での理事会参加は管理規約に定めが無いと認められないとも読み取れます。

また、理事会の開催にあたっては、総会の招集手続きが準用されることにより、開催場所があることが前提となりますので注意が必要です。

 

 

そうであれば管理規約を変更しようと考えますが、総会を開催すること自体に抵抗感があり、開催するにしても議案は必要最小限にして開催するというような管理組合が多い状況において、特別決議事項である管理規約の変更は難しいと考えます。

 

ではこのような状況において理事会はどのように動くべきでしょうか?

 

理事会だけでなく社会全体が想定外の状況で苦しんでいるため、様々な見解を頼りに、本来総会承認を取るべき事案でも、現時点の総会開催は見送り、管理組合内で理事会の活動や考えを丁寧に周知しながら理事会運営を行い、将来開催する総会でその活動の追認を取るという方法が考えられるかもしれません。

 

法的観点をとても重視し、管理組合活動に厳格な方がいて、落としどころが上手く探れないような管理組合では、司法判断が必要なトラブルにまで発展するかもしれませんが、このような状況ですので、組合員のモラルを信じて取り組めば良いと考えます。

 

理事会のインターネット技術を使用した開催において参考になるのは、「公益法人information」が発信している見解です。

 

理事会のTV会議での参加

「公益法人information」の見解ではWeb会議、TV会議は可能である。条件は次のとおり。

  • 出席者が一同に会するのと同等に出席者間で適宜的確な意見表明や協議ができるような状況であること。
  • 議事録にはWebシステムを利用して理事会を開催したこと、出席者の音声、映像が即時他の出席者に伝わり適宜的確な意見表明や協議ができるような状況を確認して審議に入ったことを記載すること。

 

 

そして、コロナの感染拡大が終息したときには、管理組合ではWeb上で理事会を開く仕組みを規定していくことになるでしょう。

 

このようなサービスは大和ライフネクスト㈱や三菱地所コミュニティ㈱が既に提供しているサービスです。

 

Web上での理事会開催

☑ 大和ライフネクスト㈱による「Web理事会サービス」

発表:2017年12月19日

https://www.daiwahouse.com/about/release/group/pdf/g_release_20171219.pdf

          

☑三菱地所コミュニティ㈱による「スマート理事会」

発表:2019年10月15日

https://www.mec-c.com/doc/info/1015.pdf

 

このようなサービスは一人でも使えない人がいると開催が難しく、逆に非効率になるジレンマも抱えます。

 

一方で「決議だけをしたいとき」、「IT機器を抵抗感なく使用できる理事が集まったとき」、「今回のような対面形式を避けたいような状況に陥ったとき」には力を発揮しますので、使用できる環境を整えておくことをお勧めします。

 

従来の理事会における課題のイメージ図

理事会運営の新しいかたちWeb理事会のイメージ図

引用:大和ライフネクスト㈱ 2017年12月19日のWeb理事会のニュースリリース

 

 

 

2.管理員や清掃員の派遣を前提としたマンション管理の方法

マンション管理は労働集約型ビジネスと呼ばれており、人の労働力に大きく頼っています。

特にマンション管理会社における事務所の仕事をAI等で効率化しても、マンション現地に派遣する人員が多く、効率化にも限界を感じていることが特徴です。

 

現地に派遣している人員としては、次のような職種があります

 

現地スタッフの職種

  • 管理員
  • 清掃員
  • 受付員(コンシェルジュ)
  • 警備員(防災センター要員)

 

※管理員は各社によって個別の呼称を定めています。

㈱大京アステージ:マンションサポーター

㈱長谷工コミュニティ:ライフマネージャー

大和ライフネクスト㈱:フロントマネージャー等

 

このようなマンション現地での職種がある中、今回のコロナの感染拡大により、現地に人を派遣し、人と人が直接会って話をしなければ業務が進まないというこれまでの常識が「変わっていく」、「変わらざるをえない」状況に直面しています。

 

2-① コロナの影響による現地スタッフの勤務体制

各社の判断によって、これまで通りの勤務を継続するケース、一部業務を縮小するケース、スタッフの派遣を見合わせるケースは様々です。

 

そのような中で、管理組合、管理会社が頭を悩ませた管理員や清掃員の業務はゴミ出しでした。

管理員は行政がゴミを回収する前に、分別状況を整理することや、収集場所までゴミを移動します。

 

タワーマンションでは、各階にゴミ置場が設置されていることもあり、管理員が各階からゴミを回収することもあります。

この業務にのみ対応するために、現地スタッフが出勤するという事例が散見されました。

 

2-② 管理仕様の充実・手厚さに気づいた管理組合と管理会社

管理組合も管理会社も、これまでは管理員等の採用難という面に直面しながらも、なんとか人を確保(質の確保は別)してきました。

このような背景は管理会社が管理委託業務費を値上げしている要因の一つとなっています。

 

ココがポイント

しかし、このような状況になって、「あれ?思っていたより管理員等が現地にいなくても業務ができるのでは?」と思ったのではないでしょうか?

 

これまで週5日(月~金曜)の8~17時で管理員の派遣を依頼していた管理組合が、現状のままの勤務形態を続けると管理委託業務費が増えることに悩んでいたとしましょう。

 

ここで今後は次のように考えるはずです。

 

「これまで思っていたより管理員は不要であることに気づいた」、もしくは住民側が「受付の時間が限られる」、「清掃品質がこれまでよりは劣る」といったことを我慢できるのであれば、勤務日数を減らせばいいだけであると。

 

 

2-③ マンション管理手法の未来に向けた変化と問題の解決策

さて、そうなるとこれまでの勤務時間が減った管理員は給料が減りますが、その他マンションとの複数個所での勤務を組み合わせることで、乗り切れるのではないでしょうか?

 

ココがポイント

また、これまで勤務時間を固定していることが一般的でしたが、管理会社に裁量の幅(開始時間や終了時間に縛られず、トータルの勤務時間枠だけを決める)を持たせて、他マンションと連動した管理を行うことで、一層効率化した管理が実現できると考えます。

 

コンシェルジュを派遣している会社では、勤務場所が定まらないことを理由に複数マンションでの勤務に制限をかけなければならないという課題はあるようです。

しかし、コロナ終息後、これまでの日常が戻ってくると考えるのではなく、新たな管理業界の常識、働き方を作っていく必要があると考えます。

 

そうしなければ、管理会社から見捨てられる(管理会社としても管理を続けたくてもできない)状況が広がり、マンション管理組合が自主管理、もしくはスラム化していくのではないでしょうか?

 

大手管理会社の一部では管理員に代わり、AIやタッチパネル式の受付ができるような管理手法を開始しています。

コロナ問題が出るまでは危機感だけが先行し、なかなか進まなかった取り組みですが、今後は否応なしに、人が現地にいるという前提の管理手法から脱却しなければならない時代を迎えます。

 

ココに注意

特にコロナ問題により、この数ヶ月は管理員をはじめとした現地スタッフの採用が進まず、現地スタッフを派遣する会社はより苦境に立たされるでしょう。

 

そうなれば今だけではなく、これから数ヶ月にも渡って問題化が顕在化し、管理手法が変わっていくことは当然のことと思います。

 

なお、コロナ問題により現地にスタッフを派遣しないという方針を出した会社がありますが、会社によって管理組合への費用請求の考えがばらついていますが、管理組合と管理会社で話し合いを行い、双方合意の上で、清算を進めることになります。

 

・派遣した分だけ日割り計算

・やむを得ない事情により派遣できないだけなので全額請求

 

~参考~管理員の業務内容

  • 受付等業務(居住者・来訪者等の対応、駐車場契約等の各種届出書の受付等)
  • 巡回点検業務(建物・設備の点検、照明管球交換等)
  • 立会業務(共用部設備等の点検、工事の立会)
  • 報告業務(管理日報等の作成、管理組合運営業務の補助等)
  • 清掃業務(ゴミ置場の整理、清掃、植栽への散水等)

※別途、清掃員や受付がいる場合も有り。

 

 

 

3.管理組合と管理会社が定める各種点検等の中止に関する返金規定

管理員等の現地スタッフの派遣中止に伴う返金規定(キャンセルポリシー)はある意味わかりやすい部分であります。

管理組合も管理会社も今までスタッフの派遣ができないときには、返金をして解決してきた経験があるはずです。

 

しかし、コロナの影響ではこれまでとは違った角度から返金等の問題が生じることとなりました。

それは専有部に入ることを前提とした排水管清掃や消防設備点検です。

 

迫られた延期・中止の判断

コロナの影響により、専有部に清掃員・点検員が入ってほしくないと考える人が増え、管理組合や管理会社は急遽、延期・中止の判断をしなければなりませんでした。 

 

これらの清掃や点検は、土日での実施の希望が多く、実施の数ヶ月前から管理会社と施工会社が調整して予定を組んで実施しています。

こういった背景があり、1週間後に実施が決まっていた清掃や点検が中止になることは、そこで人員を確保していた施工会社にとっては厳しい状況となります。

 

ココに注意

施工会社からさらに別の会社に再委託しているケースもあり、単純に1社と調整すればいいという状況では無いことが問題を深刻化させます。

 

一方で管理組合に「人員を確保し予定を組んでいたので費用をください」と申し出ても、これらの清掃や点検はキャンセル規定を定めていることはほとんど無いため協議となります。

現時点では自粛モードで管理組合と管理会社の打ち合わせが必要最小限しかされていないので、そこまで問題は表面化していません。

 

しかし、実施していない業務に対して費用を払いたくない管理組合と、費用を支払ってもらえないと損失を被り状況によっては会社の存続にも影響を与えかねない施工会社との間で今後綱引きが始まると考えます。

 

ココがポイント

今後は管理委託契約書に排水管清掃や消防設備点検の直前のキャンセルの規定が盛り込まれることになるでしょう。

 

なお、そうは言っても今回の中止や延期の対応について、何をベースに交渉をすればいいのでしょうか?

一つの根拠となる考えは、管理組合と管理会社が締結している管理委託契約書の内容です。

 

管理委託契約書の多くは、国土交通省が発表している契約書のひな型である標準管理委託契約書を参考にしています。

 

その契約書には排水管清掃や消防設備点検を直前でキャンセルしたときを想定した記載はありません。

一方で、契約に定めの無い事項については、協議すると記載がありますので、双方が節度を持って話し合いを行い、どのように扱うかを決定するようになると考えます。

 

 

 

 

4.今こそ進めるべき分譲マンション管理業界の重説等のIT化

マンションの管理の適正化の推進に関する法律に基づき、マンション管理会社が管理組合に対して行うべき重要事項説明や管理事務報告等も直接の対面を前提としており、悩ましい対応の一つです。

 

似たような決まりに関しては、賃貸マンションでの重要事項説明があります。

こちらは2017年10月からIT化の運用が開始されており、分譲マンションの管理業界においては遅れている取り組みです。

 

現在、IT活用等に係る社会実験は進められていますので、一刻も早く対応が可能になってほしいものです。

 

重説等のIT化の概要

  • マンション管理適正化法第72条(重要事項説明)や第77条(管理事務報告)に基づき、管理業務主任者が行う業務を、テレビ会議等の ITを活用して行う仕組みです。
  • パソコンやテレビ、タブレット等の端末を利用して、対面と同様に説明、質疑応答が行える双方向性のある環境が必要です。

 

 

 

5.マンション管理組合会計の収入構造が変化し減収となる

コロナの影響により社会経済は不況に陥るでしょう。

経済不況と言われて思い返すのが、リーマンショックです。

 

当時の状況と今回のコロナの影響から推測すると、管理組合会計において次の変化が起こります。

 

管理組合会計の変化

  • 駐車場使用料収入の減少
  • 管理費等の滞納の増加
  • ゲストルーム使用料の減少

 

5-① 駐車場使用料収入の減少

リーマンショックのときには、マンション管理組合の3台収入源(管理費・修繕積立金・駐車場使用料収入)のうち、車を手放す人が増え、管理組合の駐車場使用料収入が大きく減少した結果、管理組合会計を圧迫することになり、やむなく、管理費の増額や管理仕様のグレードダウンを決断した管理組合が多く見られました。

 

5-② 管理費・修繕積立金等の滞納の増加

管理費等の滞納の増加もリーマンショックの時に顕著でした。

ローンを支払えなくなる人が増え、金融機関による不動産担保競売によりマンションを手放す人が増えました。

 

ココに注意

すでに管理費等を滞納している人からは「給付金の10万円で支払う」との意向を示す人も出てきています。 

 

しかし、給付金を管理費等の支払いに充てることができる人はまだ経済的にやりくりができていると考えられます。

実際には管理費等を支払うことができない人が増加するでしょう。

 

5-③ ゲストルーム使用料収入の減少

これはコロナの影響で顕在化した問題です。

大規模マンションには来客を宿泊させることのできる設備としてゲストルームがあります。

 

このゲストルームは周辺のホテルの宿泊代の相場と比べても格安で利用することができ、マンション住民には人気の設備です。

 

しかし、コロナの影響で利用を控える人が増え、さらには管理組合としても利用停止の措置を取っています。

 

ココに注意

利用を再開するにしても、消毒といった感染拡大防止策(手間と費用)にも限界があり、管理組合を悩ませるでしょう。

 

大規模マンションであれば月額で数十万円(年額であれば数百万円)の収入になるゲストルームの利用停止や利用者の減少は、管理組合の収入に影響を与えます。

 

 

6.在宅率が高くなりバルコニー喫煙、騒音等で悩む人が増加

コロナの影響により在宅率が高くなり、これらのことで悩む人が増加しています。

ただでさえ以前までの日常から変化し、ストレスが溜まっている中、トラブルのもとになりかねません。

 

自分は大丈夫と思っていても騒音のように想像以上に音は響き、人に迷惑をかけてしまっているかもしれません。

 

マンション住まいの方は、今一度、こういったことに注意をして生活することが必要な状況です。

互いを思いやり、少しでも快適な生活(stay home、enjoy home)ができるよう協力しあいましょう。

 

 

 

まとめ コロナの影響で変わるマンション管理の問題と未来

マンション管理業界はもともと人手不足に苦しんでいました。

コロナの影響により、必然と省人化しても管理できるという考えになることや、IT化を進めざるを得ないということに繋がるきっかけになっています。

 

一方で管理組合にとっては、修繕積立金の不足問題を抱える中で、経済不況に陥ることで管理組合の収入がさらに限られ苦しい会計の収支状況となるでしょう。

管理会社からサービス提供を受けるということは、自分たちの手間を減らし、より快適な生活のために対価を支払うということです。

 

今後は、多少の不便さや自分たちで清掃等を実施することで、このサービスの対価を減らしていくことを受け入れる管理組合が増えるでしょう。

管理組合と管理会社が対立するのではなく、それぞれが工夫をして進むべき方向性を共同して探っていかなければいけない状況となっています。

 

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