新型コロナウィルス(以下、コロナ)の感染拡大は、社会経済だけでなく実生活にも大きな影響を与えています。
マンション管理組合では、これまでは想定もしていなかった事態に、管理組合運営の見直しを余儀なくされ、予定していた総会を中止したマンションや総会を延期して開催方法を工夫しながら乗り切るマンションがあります。
本記事では、コロナの影響を受けてマンション管理組合の総会の在り方がどのように変わっているのか、また、その対応方法を紹介します。
※本記事は2020年5月2日の情報を基に記載しています。
こんな方におすすめ
- コロナの影響により総会を開催すべきか悩んでいる管理組合理事長・役員
- コロナの影響により総会がどうなるかを知りたい管理組合関係者
1.コロナの影響を考えたマンション管理組合の総会の開催方法
新型コロナウィルスの影響により、まず最初にマンション管理業界が直面したのが、3密(密閉空間、密集場所、密接場面)の状態となりうるマンション管理組合の総会開催についてでした。
区分所有法ではマンション管理組合の理事長は年に1回、総会(集会)を開催して、会計報告等の一定の事務の報告を行う必要が定められています。
そのため多くの管理組合や管理会社は「運営方法を工夫して開催」か「延期」という手法を取っています。
2.マンション管理組合の総会の運営方法を工夫して開催
多くのマンションは総会を延期するのではなく、運営方法を工夫して開催することを選んでいます。
事例としては300世帯のマンションで役員の出席も含め当日総会会場に集まったのが8名、600世帯のマンションで15名といったように確実に効果が出ます。
そもそも、管理組合側が工夫した開催方法をとらなくても、区分所有者の方からすれば「そもそも会場での直接参加は避けたい」という考えの人が多いと思います。
総会を延期しない背景
- 延期してもいつかは開催しなければならず、それがいつになるかははっきりとわからないこと
- 管理組合役員は総会の開催まで引き続き役員を担うこと
- 管理組合の年度予算が定まらない状態で運営を行うこと
総会を開催するとなると、3密の対策も含め、どのように開催方法を工夫するかを考えなければなりません。
そこで各管理組合・管理会社は次の観点から工夫を行っています。
総会を開催する場合の運営の工夫
- 総会会場への直接の出席者を減らす工夫
- 総会会場での工夫
- 議事進行の工夫
- 書面総会を開催(現実的でなくお勧めしない)
ではそれぞれの具体的な工夫の方法を確認していきましょう。
2-① 総会会場への直接の出席者を減らす工夫
総会の開催案内を出すときに次の呼びかけを行います。
そのための前提として、総会質問状を総会資料に同封し、事前に質問があった事項は総会議事録で回答するという対応方法を行います。
より丁寧な管理組合では、総会前に回答書を配付する場合もあります。
総会会場への直接の出席は控えていただき、できるだけ「議決権行使書」もしくは「委任状」で議決権を行使してくだい。また、1世帯複数での参加は控えていただくようにご協力をお願いします。
また、総会の執行部側である管理組合役員の出席もある程度限定します。
管理組合では総会を開催した場合、総会議事録の作成が必要となり、議事録には議長(基本的には理事長)と総会に出席した組合員2名が署名押印する定めとなっています。
そのため、大型マンションを中心に必要最小限の役員のみ総会に出席することとし、その他役員は「議決権行使書」か「委任状」を提出することで対応します。
具体的な参加者の例としては、「理事長+副理事長+会計理事+書記理事+監事」のみを中心とした出席者で構成します。
標準管理規約第49条
(議事録の作成、保管等)
総会の議事については、議長は、議事録を作成しなければならない。
2 議事録には、議事の経過の要領及びその結果を記載し、議長及び議長の指名する2名の総会に出席した組合員がこれに署名押印しなければならない。
2-② 総会会場での工夫
集会室が無いマンションや大型マンションで普段は外部に会場を借りて総会を開催しているマンションでは、コロナの影響により会場が閉鎖されているケースがあります。
結果としてマンション内でも外で開催する場合でも、次の点を重視して総会を開催します。
チェックリスト
- 窓や扉は開放状態(時期によってはコートの準備等の服装に関する呼びかけも重要)
- 座席は2メートル以上の距離をもって配置
- 会場の出入口にはアルコール消毒を設置
- やむなくマイクを使用する場合はマイクの受け渡しの際に消毒用のガーゼ等を準備
2-③ 総会当日の議事進行の工夫
通常であれば多くのマンションでは、役員の紹介、議案の説明(各理事や管理会社)といった丁寧な説明を行い、議事進行を進めます。
しかし、コロナの影響で開催時間を短くする必要があることから、次の工夫を行います。
当然ながらこのように運営する方針は総会資料に事前に記載しておきます。
総会当日の議事進行の工夫
- 役員の紹介といったことは説明は割愛する
- 総会資料の説明は議案書を事前配付していることを考慮し必要最小限に留める
- 質疑は極力控えていただく(禁止とまではしない)
3.現実的でない区分所有法に基づく書面総会の開催
あくまでも一つの方法として紹介します。
区分所有法に基づき、直接顔を合わさなくても総会を成立させる方法があります。
しかし、この総会の開催方法には区分所有者全員から書類の提出(100世帯のマンションでは全員から書面の提出が必要)が必要となり、全員が顔見知りのような小規模マンションを除き、現実的ではありません。
+ ⇒⇒⇒ 区分所有法第45条(書面又は電磁的方法による決議)を確認
1.この法律又は規約により集会において決議をすべき場合において、区分所有者全員の承諾があるときは、書面又は電磁的方法による決議をすることができる。ただし、電磁的方法による決議に係る区分所有者の承諾については、法務省令で定めるところによらなければならない。
2.この法律又は規約により集会において決議すべきものとされた事項については、区分所有者全員の書面又は電磁的方法による合意があつたときは、書面又は電磁的方法による決議があつたものとみなす。
3.この法律又は規約により集会において決議すべきものとされた事項についての書面又は電磁的方法による決議は、集会の決議と同一の効力を有する。
4.第33条の規定は、書面又は電磁的方法による決議に係る書面並びに第1項及び第2項の電磁的方法が行われる場合に当該電磁的方法により作成される電磁的記録について準用する。
5.集会に関する規定は、書面又は電磁的方法による決議について準用する。
4.マンション管理組合の総会を毎年開催している時期から延期
通常総会の開催の時期は区分所有法や各管理組合で定める管理規約で決まっています。
コロナの影響により、区分所有法に反して総会を延期することは「法務省の見解」が参考になりますし、その際の手続き等は一般社団法人マンション管理業協会の「新型コロナウイルス感染拡大における通常総会開催に関する Q&A」を参考に対応すれば大丈夫です。
+ ⇒⇒⇒ 法務省の見解・マンション管理業協会のQ&Aを確認
マンションの管理組合等における集会の開催について
新型コロナウイルス感染症の影響により,管理者が選任された管理組合又は管理組合法人において,前年の開催から1年以内に建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」といいます。)上の集会の開催をすることができなくなった場合について,以下のとおりお知らせします。
区分所有法においては,管理者又は理事が,少なくとも毎年1回集会を招集しなければならないとされ,集会において毎年1回一定の時期にその事務に関する報告をしなければならないとされていますが(区分所有法第34条第2項,第43条,第47条第12項,第66条),前年の開催から1年以内に必ず集会の招集をし,集会においてその事務に関する報告をすることが求められているわけではありません。
したがって,今般の新型コロナウイルス感染症に関連し,前年の集会の開催から1年以内に区分所有法上の集会の開催をすることができない状況が生じた場合には,その状況が解消された後,本年中に集会を招集し,集会において必要な報告をすれば足りるものと考えられます。
参照:法務省の見解
+ ⇒⇒⇒ マンション管理業協会のQ&Aを確認
新型コロナウイルス感染拡大における通常総会開催に関する Q&A
Q1 新型コロナウイルスに関する注意喚起が続いている中で、通常総会を開催する場合の留意事項は何ですか。
A1 組合員に対し、総会会場に来場することなく、議決権行使書又は委任状(理事長等を指定する)により、議決権を行使してもらうことを、通知又は個別連絡により勧める方法が考えられます(同時に掲示板等に掲示する方法も考えられます。)。
・議決権行使書及び委任状を送付していない場合は、議決権行使書等を急いで送付し総会開催日までに提出してもらうようお願いする。
・組合員には、体調を考えた上で、総会への出欠を慎重に判断してもらい、欠席する場合には、議決権行使書により、議題に対する賛否を表明してもらうことをお願いする。
・議決権行使書により議決権を行使してもらう場合には、議案に対する意見を文書で表明してもらうことも可能であることを併せて知らせる。
・出席者がある場合には、マスク着用、室内換気、短時間の運営等に努める。
・なお、「招集してしまったから開催しなければならない」ということではなく、状況を踏まえ、中止することも含め柔軟に判断することも必要と考えられます。
Q2 通常総会を開催せずに書面による決議を行うことは可能ですか。
A2 区分所有法第45条第1項では、「この法律又は規約により集会において決議をすべき場合において、区分所有者全員の承諾があるときは、書面又は電磁的方法による決議をすることができる。
ただし、電磁的方法による決議に係る区分所有者の承諾については、法務省令で定めるところによらなければならない。」とし、同条第2項では、「この法律又は規約により集会において決議すべきものとされた事項については、区分所有者全員の書面又は電磁的方法による合意があつたときは、書面又は電磁的方法による決議があつたものとみなす。」としています。
このことから、通常総会において決議すべき事項について、区分所有法第45条第1項又は同条第2項の要件を満たす場合には、通常総会を開催しなくても、これらのいずれかの方法により決議することができるものと考えられます。
また、これ以外の方法として、通常総会を開催することとし、組合員には、可能であれば議決権行使書又は委任状(理事長等を指定する)により議決権を行使してもらうことを勧める方法も考えられます。
Q3 通常総会の開催を管理規約に定めた期間から延期してもよいですか。
A3 通常総会の開催時期について、管理規約に「理事長は、通常総会を、毎年1 回新会計年度開始以後2か月以内に招集しなければならない。」(標準管理規約第42条第3項)といった規定を置く管理組合は多いと推察します。
しかしながら実際には、災害発生の場合等には、やむを得ず期間内に総会を開催できないこともあり得ることです。今回の感染拡大についても、これに準じて、総会を開催するリスクや組合員の安全等も勘案して、期間内の開催が可能か否かが検討されるべきものと考えられます。
Q4 通常総会の開催を延期することを理事会で決定してよいですか。
A4 管理規約に通常総会の開催を延期し行う規定がない管理組合も多いと推察しますが、緊急時の対応として、やむを得ず期間を超えて総会を延期せざるを得ないと判断する場合には、管理組合の業務の運営に当たる執行機関である理事会で通常総会の開催を延期することを決議する方法が考えられます。
組合員には、緊急時の、組合員の安全・安心のために、やむを得ない対応であることを理解してもらう必要があります。
Q5 通常総会を延期する場合にはどのような手続きが必要ですか。
A5 一例として、次のような手順が考えられます。(管理規約に規定がない場合) 1、 理事会を開催し、緊急時のやむを得ない対応として、通常総会を延期することと併せ、その間の管理組合の運営は次のように行うことを決議する。
ア 総会で後任役員が就任するまでは現役員が職務を行うこと(標準管理規約第 36条第3項)
イ 総会で次期収支予算が決定するまでは今期収支予算に従い予算執行すること(標準管理規約第58条第3項)
ウ 管理会社との委託契約については、従前契約と同一条件での暫定契約を締結すること((一社)マンション管理業協会発行の「マンション管理会社の感染症等流行時対応ガイドライン」を参照)
http://www.kanrikyo.or.jp/report/pdf/gyoumu/virus_20200227.pdf
2、組合員に対し、理事会で決議した事項(通常総会を延期すること、ア、イ、ウ)を通知する。
・通知と同時に通知内容を掲示板等に掲示する方法も考えられます。
3、理事長は、通常総会の開催を延期すること等に関する組合員から問合せ、異議等については真摯に対応する。
・組合員に対しては、現在の状況は今までには経験のない事態であり、また、災害発生時において、物理的にやむを得ず総会を開催できない事態に準じることと考えられ、管理規約の規定に沿わないこともあるが、組合員の安全・安心のために、やむを得ず延期するものであることを理解してもらう。
4、その後、総会を開催できる状況になった場合には、可及的速やかに総会を開催し、前期役員が継続して職務を行ったこと、前期収支予算に従い通常の業務を執行したこと、管理会社との委託契約については、従前契約と同一条件での暫定契約を締結したことを報告するとともに、改めて、新役員選任、収支予算、委託契約更新について決議することが必要です。
Q6 通常総会の開催を延期した場合は法律違反となりますか。
A6 区分所有法においては、管理者又は理事が、少なくとも毎年1回集会を招集しなければならないとされ、集会において毎年1回一定の時期にその事務に関する報告をしなければならないとされていますが(区分所有法第34条第2項、第43条、第47条第12項、第66条)、法務省からは「今般の新型コロナウイルス感染症に関連し、前年の集会の開催から1年以内に区分所有法上の集会の開催をすることができない状況が生じた場合には、その状況が解消された後、本年中に集会を招集し、集会において必要な報告をすれば足りる」との見解が示されています。
法務省 HP http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00024.html
Q7 通常総会を延期した場合には、管理会社との委託契約はどのように更新するのですか。
A7 緊急時の対応として、理事会で、従前契約と同一条件での暫定契約を締結することについて決議する方法が考えられます。この場合には、理事会決議より暫定契約を締結することについて、管理会社と事前に協議し、理解を得ておくことが大切です。その後、総会を開催できる状況になった場合には、管理会社と従前契約と同一条件での暫定契約を締結したことを報告するとともに、改めて、委託契約更新について決議する必要があります。
参照:マンション管理業協会のQ&A
まとめ コロナの影響による総会の開催方法や対応
法務省の見解やマンション管理業協会といった団体から発信される情報をもとに、各管理組合が管理会社と協力して、難局を乗り切ろうとしています。
総会の対応だけでなく、コロナが終息したときはマンション管理の在り方自体が見直されていることでしょう。
本記事が少しでも総会運営の参考になれば幸いです。
一日も早くコロナの感染拡大が止まり、普段の日常が取り戻せますように。
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