あなたが中古マンションを購入するときに注目することは何でしょうか?
立地、部屋の広さ、間取り、築年数、駅からの距離など、人によって優先順位は異なりますが、購入後の「ローン+管理費+修繕積立金」などの毎月の負担額が気にならないという方はほとんどいないのではないでしょうか?
本記事では、中古マンションの購入後に修繕積立金が一気に値上がりして、「こんなはずじゃなかった」という事態にならなくてすむように、注意すべき長期修繕計画の確認ポイントを紹介します。
こんな方におすすめ
- 中古マンションの購入を考えている方
- マンション管理組合の理事長や役員
- 修繕積立金の算出や長期修繕計画に理解を深めたい方
1 中古マンションの購入には修繕積立金の算出根拠を確認
中古マンションを購入する時には、不動産仲介会社から法律にもとづく重要事項説明を受けます。
仲介会社はこの重要事項説明をするにあたり、説明しなければならない事項の一部をマンション管理会社が発行する重要事項調査報告書に基づき、修繕積立金の額や残高、また今後の改定の予定等の説明をします。
ココがポイント
中古マンションの購入にあたっては、その説明にあわせて、長期修繕計画の存在とその計画に対する修繕積立金の資金計画を注意点として確認することが重要となります。
今回は表面上の修繕積立金の資金計画にもう一歩踏み込んで、中古マンションの購入に失敗しないために、長期修繕計画に盛り込まれていると望ましい工事やその注意点を紹介します。
2 購入後にいきなり修繕積立金が不足するマンションの事情
多くのマンション管理組合では、修繕積立金の設定根拠となる長期修繕計画を作成しています。
マンション総合調査結果
2018年(平成30年)に国土交通省が実施した調査結果によると、長期修繕計画を作成してるマンションは90%、長期修繕計画に基づき修繕積立金を設定しているマンションは72%でした。
そして、長期修繕計画の作成には2008年(平成20年)に国土交通省が発表しているガイドラインを参考にしていることが一般的です。
長期修繕計画は概ね25~30年先までを見越した計画としており、築年数と実施予定の兼ね合いから、まだ計画として見込まれていない工事項目がある場合があります。
当然、長期修繕計画に見込む工事項目が少なければ、表面上、蓄えておくべき修繕積立金は低く抑えることができます。
ココに注意
この関係から、長期修繕計画を更新したことにより、これまで見込んでいなかった工事項目を見込むべき年数を迎え、現状の修繕積立金で足りていると思っていた管理組合が、突然資金不足が想定される状態となる可能性があります。
突然修繕積立金が不足する例
築5年のマンションで、この先30年の長期修繕計画を作成していた場合、3度目の大規模修繕工事(12年周期)の際に同時実施を想定したサッシ類の交換はまだ資金計画には影響を与えません。
しかし、このマンションで築10年を迎えた時に長期修繕計画を更新すると築40年までの計画となることにより、築36年目に計画する3度目の大規模修繕工事が工事予定に入ります。
この工事予定の影響により、突然資金計画に不足が生じるというケースが発生します。
3 中古マンションを購入する際に注意する長期修繕計画のポイント
それではどのような工事項目が長期修繕計画に見込まれていると将来的な修繕積立金の不足を心配しないですむ計画と言えるのか、注意点とともに主な工事項目を紹介します。
必要な工事項目のリスト
- 給水・排水管工事
- エレベーターのリニューアル工事
- 機械式駐車場の更新工事
- 窓サッシ(ガラス)の交換工事
- 耐震診断と耐震化工事
3-1 給水・排水管工事
ココがポイント
管理組合が専有部分の配管も長期修繕計画の工事項目に見込んで、工事実施を予定(もしくは実施済)しているか?もしくは個人負担となる広報、取り組みを進めているか?
共用部分の配管の工事は管理組合が負担しますが、専有部分(部屋内)の工事は原則として個人負担となる中で、これらの配管が古くなることにより、下階に漏水するという事故に繋がります。
そのため、専有部の配管工事を個人に任せると、個人の意識、財力により配管の老朽化に伴う漏水対策への対応がマンション全体でバラバラになり、安心、安全な生活を送ることができません。
この設備が適切に更新されていないと、中古マンションを購入した途端に、上階から漏水、もしくは下階に漏水をさせてしまうという事態になりかねません。
また、高経年のマンションでは配管自体がコンクリートに埋まっていることもあります。
漏水時に原因箇所の特定に時間を要するだけでなく、復旧工事も大掛かりになりがちで、下階の漏水被害を受けた住戸は当面の間、不自由な生活を送らなければなりません。
このような事態を回避するために、管理組合が専有部分の配管も長期修繕計画の工事項目に見込んで、工事実施を予定(もしくは実施済)している場合、安心できる長期修繕計画・資金計画と言うことができるでしょう。
なお、配管工事には大きく「更生」と「更新(交換)」という方法があります。以下、参考に紹介します。
配管の更生工事と更新工事
「更生工事」
概ね築20年ほどのマンションは、錆びることのない樹脂管を使用していますが、鉄管等、錆びる配管を使用している場合、配管の延命を目的に配管内部の錆びを落とし、新たに配管内部をコーティングし長持ちさせるために実施する工事です。
「更新(交換)工事」
更生は内部の錆びを削るために、配管の肉厚が重要となりますので、更生が実施できない、もしくは更新と比べた時に費用対効果から更新の方が良いと判断した場合には、こちらの工法を選択することになります。
この工事は更生と異なり、配管を交換するためには、室内の床材を剥がす必要がありますので、一般的には更生より費用は高くなりますし、居住者の工事への協力、理解も更生より重要となります。
3-2 エレベーターのリニューアル工事
ココがポイント
建築基準法の改正や福祉対応といったことを含んだ長期修繕計画(既に工事を実施済み)となっているか?
エレベーターの法定償却耐用年数は17年(税法上)ですが、実際にマンションで交換する目安の時期は築25年~30年といったところです。
特に20年を超えてくるあたりからメーカーから部品在庫の製造を中止することにより、数年後には部品共有がストップするとの連絡があり、それをきっかけにリニューアルを検討する管理組合が多いのも実態です。
また、経年劣化による単純な機能回復だけでなく、近年では建築基準法施工令の改正による法的対応、誰もが使用しやすい福祉対応、振動、騒音に配慮した家庭規制への対応といったことも必要となります。
なお、以前は1基のリニューアル費用は1,000万円と言われていましたが、近年ではこれらの対応のために、費用は上昇傾向です。(※タワーマンションでは2倍、3倍の費用がかかると言われています。)
これらの対応が長期修繕計画に盛り込まれているか、もしくは既にこれらの対応が終わっているか、資金計画に一定の影響を及ぼしますので、注意が必要となります。
3-3 機械式駐車場の更新工事
ココがポイント
機械式駐車場の撤去や更新の方針について検討されており、その内容が長期修繕計画に盛り込まれているか?
マンションにおける機械式駐車場は金食い虫と言われます。
近年では空きが目立つことにより、メンテナンス費を削減するために、設備を撤去し、埋め戻す管理組合が増えてきています。
一方で、附置率(住戸数に対して区画を一定数確保しなければならない)の兼ね合いから、空き区画があっても撤去ができない場合や、利用者がいるのでメンテナンスを続ける必要がある場合は、設備の更新が必要となります。
このような観点において、管理組合で検討がされているか、そして、方針が決定し、長期修繕計画にそのことが反映されているかは重要なポイントとなります。
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3-4 窓サッシ(ガラス)の交換工事
ココがポイント
長期修繕計画に防音、省エネ、防犯性等の向上を目的とした窓サッシの交換を予定しているか?もしくは本工事を実施済みか?
あまり馴染みはないかもしれませんが、窓ガラスは共用部分です。
近年では防音、断熱、防犯性に優れた、既存の窓の内側にもう1枚、窓を取り付けた二重窓といった製品が出てきています。
築30~40年ではサッシや戸車の劣化により、窓ガラスの開閉にも苦労するようになり、また性能も社会的劣化が進んでいることにより、窓サッシ(ガラス含む)の交換を行う必要が出てきます。
国もこの工事には補助金を出すなど、社会全体の省エネの観点からも後押しをしています。
ココに注意
長期修繕計画にこの窓サッシ(ガラス)の交換工事を見込むと概ね3回目の大規模修繕工事の時期と重なります。
この工事を含めることにより、資金不足となることや、そもそも工事事例が少ないことを理由に、計画に見込むことに拒絶反応を示すマンションがあります。
一部屋50~100万円とも言われる工事となるため、これまでこの観点での修繕積立金を積み立ててこなかったのですから、資金計画に大きな影響を与える面はあるものの、必ず必要となる工事のため、長期修繕計画には見込む必要があります。
3-5 耐震診断と耐震化工事
ココがポイント
もし、旧耐震であるならば、耐震診断を実施し、新耐震基準を満たすための対策がなされているか?もしくは対策を実施済みであるか?
新耐震基準は、1981年(昭和56年)年6月1日以降の建築確認において適用されている基準で、この日以前に適用されていた基準を旧耐震基準と言います。
この新耐震基準は、震度6強~7程度の揺れでも生命に影響を与えないように建物が倒壊しないような構造基準として設定されています。
ココに注意
新耐震基準であれば特に耐震化は不要と考えられていますが、旧耐震の場合、それだけで中古市場では購入を避けられがちです。
4 購入した中古マンションで修繕積立金が足りないとどうなる?
紹介したような工事を網羅している充実した長期修繕計画を作成しているマンションは少ないのが現状です。
では、もし修繕積立金が足りない場合、マンションとしてどのような対応をする必要があるのでしょうか。
大きく次の3パターンがありますので、参考にしてください。
なお、残念ながら全ての場合で、中古マンションの購入者から購入を避けられる流れになりますが、そうならないために早めの対策が重要です。
修繕積立金が足りない場合
- 毎月徴収する修繕積立金を増額する
- 工事を実施するたびに足りない修繕積立金を一括で徴収する
- 工事を実施するたびにマンション管理組合が借り入れをする
4-1 毎月徴収する修繕積立金を増額する
計画的に増額できれば良いのですが、築30年を超えるようなマンションの場合、入居者の年齢、所得状況から改定が難しいです。
また、急に3倍や4倍に増額しないと工事資金を賄えない状態のマンションが多いことが現状です。
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4-2 足りない修繕積立金を一括で徴収する
共用持ち分割合により、足りない修繕積立金を一括で徴収する方法です。
1部屋あたり数十万円~100万円単位の徴収が必要となり、各個人の資金力のバラつきや未収のリスク等、多くの問題を抱えていますので、できれば避けたい方法です。
4-3 工事を実施するたびにマンション管理組合が借り入れをする
住宅金融支援機構等、管理組合の工事実施に対して融資する金融機関があります。
金利も1%台で借り入れることができる場合もあるため、一時的な対応としては工事を乗り切ることができますが、抜本的な資金不足の解決とはなりませんので、できれば避けたい方法です。
まとめ 中古マンションの購入には修繕積立金だけでなく長期修繕計画の確認が必要
本記事のまとめ
- 中古マンションの購入には修繕積立金の算出根拠を確認する
- 購入後にいきなり修繕積立金が不足するマンションの事情
- 中古マンションを購入する際に注意する長期修繕計画のポイント
- 購入した中古マンションで修繕積立金が足りないとどうなる?
今回の記事を参考にすることで、マンション管理組合運営(修繕積立金の資金計画)に限界を迎えている中古マンションを購入せずに済むために参考となれば幸いです。
また、現役の管理組合役員の皆様は、修繕積立金の増額というとどうしても自分がやりたくないと思ってしまいます。
しかし、それは自分のマンションの資産価値を下げる(購入時に選ばれない)ことに繋がっていると考え、一日も早く、修繕積立金の設定根拠となる、長期修繕計画の見直しと修繕積立金の増額に取り組んでいただくことを願っています。
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