管理戸数で業界大手の住友不動産建物サービス(以下、住友)が2018年夏頃から、自主的に一部(管理組合数の約1割)の管理組合に対して2019年春を目途に管理終了の通告を開始しました。
会社方針でこれほど大規模に管理会社が自ら契約更新の辞退を申し入れることは過去に例がなく、管理業界に与えた影響は大きなものとなりました。
この一連の動きは「建サ」ショックと呼ばれており、この背景や実態を紹介します。
こんな方におすすめ
- マンション管理会社から管理委託費の値上げの提案を受けた理事会役員
- マンション管理会社に不満をもっている理事会役員
- マンション管理会社のリプレイスを考えている方
1 住友が管理継続を辞退するに至った背景
管理継続の辞退の申し入れは基本的に社長名での文書で行っています。
その文面からは次の理由が確認できます。
住友の契約辞退の理由
- 住友及び協力関係各社では、現場スタッフをはじめとした人手不足が続いており、安定的に良質な人材を確保することが難しい状況であること。
- このような事情を総合的に勘案した結果、契約の辞退に至ったこと。
表面的にはこれ以上の理由を伝える必要は無いと思いますが、掘り下げていくと、その他、管理業界が抱える課題にたどり着きます。
マンション管理業界の課題
- 採算のあわないマンション管理組合との契約
- コンプライアンスを無視したマンション管理組合からの要望
- カスタマーハラスメント・無理難題を押し付けられる
- マンション管理組合の財政、組合運営の維持に関する不安
1-1 採算のあわないマンション管理組合との契約
これまで管理業界はストックビジネスとの観点から規模の拡大をすることにより成長してきました。
しかし、リーマンショック以降、新築マンションの供給数が極端に減ることになり、リプレイス競争によって規模を拡大するという選択が必要となりました。
また、管理マンションにおいてリプレイスの話が出た時には管理戸数を減らさないために、極端に低い契約金額を提示して管理を継続してきました。
1-2 コンプライアンスを無視したマンション管理組合からの要望
管理会社は区分所有法、建築基準法、消防法といったマンションを取り巻く法律を守りながら日常管理を行う義務があります。
しかし、一部管理組合では、法律に定められた契約書や届出書に難癖をつけられ必要な対応ができないケースが見られます。
また、法的背景に基づく指摘を理事会に申し入れたが、聞き入れられないどころか、議事録にも記載されず将来のリスク(善管注意義務違反を問われる)を抱えてしまうといった状況が散見されます。
さらには、費用削減の観点から法定点検を実施しないといった判断までされる管理組合もあります。
1-3 カスタマーハラスメント・無理難題を押し付けられる
管理会社の契約では実施する業務に関してはっきりしないグレーゾーンとも言える内容が多いです。
これまでは管理組合側の一方的な解釈により、無理難題を押し付けられ、時には責任転嫁をさせられ、悔しい思いをしてきた管理会社は多いです。
さらには2~3時間の長時間のクレームの電話や拘束、恫喝に近い言葉使いといった労働環境も課題です。
これでは管理会社は疲弊するだけです。
1-4 マンション管理組合の財政、組合運営の維持に関する不安
建物は定期的に点検や修繕を行うことで、適切な維持管理ができます。
これを怠るとタイルが落下するといった目に見える傷みに繋がるだけでなく、歩行者や住民にけがをさせてしまうといったことにも繋がります。
空き駐車場の増加による管理費会計の逼迫や修繕積立金を適切に増額してこなかったことにより積立金会計が破綻直前という管理組合も散見され、修繕するどころか日常の運営資金もままならないという管理組合もあります。
2 契約辞退の連絡を受けたマンション管理組合側の反応
住友側から契約辞退の申し入れを受けた管理組合はどういった反応なのでしょうか。
管理組合側の問題点を象徴した意見を紹介します。
契約辞退をされた管理組合の主張
- 契約辞退が先ではなく、値上げ提案があってからの契約辞退という流れではないのか?
- リプレイスで契約するときに現在の金額を提示したのは管理会社なのに契約辞退とは無責任ではないか?
どちらも真っ当なことを言っているようですが、契約は対等であるということを忘れた意見です。
確かにサービス業という観点で住友の申し入れは不誠実と感じるかもしれませんが、契約の更新は毎年管理組合の総会で決定されます。
その更新やリプレイスの時には契約を盾にして、契約を終了させることができる、もしくは終了させ、管理委託費の減額を実現したことがある管理組合が、自らが契約を辞退されるとなると血相を変えて、管理会社の契約に基づく対応が無責任であるとの指摘をします。
相場(管理業界だけではありません)や社会情勢として、どのようなことが起きているのかがわかりやすい世の中になっています。
このように管理組合側に都合の良い考えばかりをしていては、管理会社が契約を辞退することは、無理はないと考えます。
リプレイス相場の変化
管理委託費の観点で言えば、実際に住友から契約辞退の申し入れを受けリプレイスを行った管理組合の多くは、管理委託費が2~3割増加しています。
低価格を売りにしている大手管理会社(合人社社・日本ハウズイング)といった会社でさえ、従前より2~3割増という状況です。
これは管理委託契約の管理員業務費を時給換算してみれば、どれだけ現行の管理会社が無理をしているかはすぐにわかります。
さらに、建物・所有者の二つの老いで悩みを抱える管理組合が増えていますが、管理委託費の増加やその他電気代等の各種経費、消費増税に伴う管理費会計の逼迫という課題も直面しています。
管理組合が管理会社を選ぶだけでなく、管理会社も管理組合を選ぶ時代を迎えていることを理解しなければならない時代を迎えています。
3 管理の継続ができない管理会社の切実な状況
住友の契約辞退の表向きの理由は人手不足です。
管理業界は、管理員、清掃員、コンシェルジュ、24時間の常駐スタッフといった多くが人件費から成り立った事業構造です。
この採用の主力となる60歳台の人材が、企業の定年延長やもっと良い雇用条件先があること、管理業界のカスタマーハラスメントの実例といった情報を入手し、管理業界に人の動きが向かわない、避けられるという流れになっています。
また、管理組合側からは「高品質・良い人材」を求められ、板挟みに合っている状況です。
さらに厳しいことが、こういったスタッフの替わりに、フロント担当者が現場の穴を埋めないといけない状況があり、フロントが疲弊するという流れもあります。
管理業界としては人がいなくても成り立つ管理を、管理組合と相談して作り上げていかなければならない状況を迎えています。
まとめ 住友不動産建物サービスが変えた管理業界の常識
本記事のまとめ
- 住友が管理継続を辞退するに至った背景
- 契約辞退の連絡を受けたマンション管理組合側の反応
- 管理の継続ができない管理会社の切実な状況
これまで管理業界はストックビジネスという考えを重視し、とにかく管理を終了されない、新しく管理を受託するという方向に進んできました。
そのため不採算マンションでも企業全体で収益があれば良いとの考えになり、もっと早く、価格に転嫁すべきところができていなかった状況です。
住友は5年連続で首都圏での新規マンションの供給戸数が1位という実績もありますので、今回の動きに踏み切ることができたという捉え方もできるかもしれませんが、「建サ」ショックは管理業界に一石を投じ、英断であるとの声も聞こえてきます。
これをきかっけに健全な労働環境が醸成され、管理業界の新たな働き方に繋がっていくことが、結果として管理組合、管理業界のためになると期待します。
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